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福岡高等裁判所 昭和34年(ネ)92号 判決 1964年2月25日

主文

一(一)  昭和二九年八月二三日言渡した原判決中原告らと被告にかかる部分を取消す。

(二)  長崎県下県郡美津島町大字黒瀬字城山五一四番山林九町一反一畝歩(公簿地積)につき、各原告らの有する共有持分の及ぶ範囲は、同町大字箕形字赤隈通称赤隈浦に東方から流入する小川が、その上流において東北方と東南方の二叉に分岐する地点に存在する石塚の中心を基点イとし(別紙第一図面参照)、同図面記載のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ル、ヲ、ワ、カ、ヨ、タ、レ、ソ、ツ、ネ、ナ、ラ、ム、ウ、イの各点を順次連結する部分であることを確認する。

二(一)  昭和三三年一〇月二二日言渡した原判決中、原告佐伯光太、佐伯甚之助、橘喜美子、佐伯吉次郎と被告に関する部分を、つぎのとおり変更する。

(二)  被告は、原告佐伯光太に対し金一、〇二二円、原告佐伯甚之助、橘喜美子、佐伯吉次郎に対し、それぞれ金九八〇円宛及び各金員に対し昭和二八年一二月二六日以降各完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払うべし。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ被告の負担とする。

事実

原告らは、昭和三四年(ネ)第九二号事件について、主文一、三同旨の判決を求め、右請求が容れられない場合の予備的請求として、主文一の(一)同旨並びに「長崎県下県郡美津島町大字黒瀬字城山五一四番、山林九町一反一畝歩(公簿地積)と、同町大字箕形字赤隈一三番口第一、山林八町四反三畝二一歩との境界は別紙第一図面表示のイを基点とし、同図面表示のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ル、ヲ、ワ、カの各点を順次直結する線であることを確認する。」との判決を求め、昭和三四年(ネ)第九三号事件について、原告佐伯光太、佐伯甚之助、橘喜美子、佐伯吉次郎は「被告の控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、なお請求の趣旨を変更して主文二の(二)同旨の判決を求め、被告は、右九二号事件について、本案前の答弁として「本件控訴を却下する。控訴費用は原告らの負担とする。」旨、本案の答弁として「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」なお「原告らの予備的請求を棄却する」旨の判決を、右九三号事件について「原告佐伯光太、佐伯甚之助、橘喜美子、佐伯吉次郎の各請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも右原告らの負担とする。」との判決を求めた。

事実及び証拠の関係は、両事件につき原告らにおいて、「主文一の(二)記載の山林(以下甲山林と略称する)は、原告ら外数名の共有地で、その持分はいずれも分母を四三二として、原告佐伯武は分子一八、佐伯ヨシ子は分子九、神宮和男は分子二四、佐伯カネ及び佐伯タマノは各分子八、佐伯泰次郎は分子一六、佐伯光太は分子二七、佐伯センは分子九、佐伯朝子、佐伯ツミエ、佐伯和枝の三名は各分子三、神宮昌子は二七、佐伯甚之助、橘喜美子、小宮巖、佐伯久夫、佐伯吉次郎の五名は各分子二四、また、いずれも分母を二七〇として、佐伯光子、鈴木初子、橘倭雄、橘政和、神宮春枝の五名は分子各一、分母を一六二として、原告小宮ユキコ、橘貞子、橘弥生の三名は分子各一、分母を八一として、原告佐伯藤雄、佐伯菊枝、三山信子の三名は分子各一の割合である。甲山林の南に隣接して存在する美津島町大字箕形字赤隈一三番口第一、山林八町四反三畝二一歩(以下乙山林と略称する)は、元朝鍋千代治外一六名計一七名が持分平等の割合(一七分の一ずつ)で共有していたところ、共有者の一人朝鍋恒次郎の持分は、同人の死亡により朝鍋邦介へ、その死亡により朝鍋磯治へ順次家督相続により移転したが、磯治は相続人なくして、大正一〇年九月四日死亡したので、同人の有した持分は他の共有者一六名に帰属し、各共有者は一六分の一の持分を有するにいたつた。その後昭和一五年中被告は朝鍋近思(同人のみは当時一六分の二の持分を有した)外一二名から一六分の一四の持分を取得し、(原告らは初め被告の持分は、一七分の一四と述べ、後これを撤回して上記のとおり主張する。)一六分の一宛の持分を有した平山房及び藤島勘平の二名と乙山林を共有する外観を呈するにいたつたが、平山、藤島の両名はその以前から、居住していた美津島町を立去つていて帰らず、すでに両名は死亡し、その相続人が共有者たるべき者であるが、その氏名所在も判明せず、今まで乙山林について持分権を主張しもしくは行使した事実がないし、被告は全く他に共有者の存することを考慮する必要がない状態にあるので、乙山林は実質上被告の単有である。ところで甲乙山林の境界は予備的請求の趣旨記載のとおりであるのに、被告は別紙第一図面イ、ロ、ハを結ぶ線が両地の境界であることは争わないけれども、ト、チ、リ、ヌ、ル、ヲ、ワ、カを結ぶ線が両地の境界であることを争い、乙山林は右の線より北側であるといい、同図面のトとタを結ぶ線以南は、乙山林の一部であると主張し、当審においては第二図面20、21、22、23、9を順次結ぶ線以南は、乙山林の一部であると主張するにいたり、第一図面ト、タを結ぶ線以南の甲山林の一部であるト、チ、リ、ヌ、ル、ヲ、ワ、カ、タ、トを結ぶ線で囲まれる地域のうち、その東部に位する地域に生立する甲山林の、原告らが共有持分を有する樹木を(この点昭和三三年一〇月二二日言渡にかかる原判決の摘示事実を引用する)被告は本訴提起前の昭和二八年中不法にも伐採取得した。」と述べ、

昭和三四年(ネ)第九三号事件について、原告佐伯光太、佐伯甚之助、橘喜美子、佐伯吉次郎において「この被告の不法行為によつて、甲山林の共有者は少なくとも金一六、三六〇円の損害を被つたので、甲山林について、一四四分の九の持分を有する原告佐伯光太は金一、〇二二円、各一四四分の八の持分を有する原告佐伯甚之助、橘喜美子、佐伯吉次郎は、それぞれ金九八〇円の損害を被つたので、右各金員及びこれに対する不法行為の後であり、被告に対する訴状送達の翌日である昭和二八年一二月二六日以降完済まで、年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」と述べ

原告ら全員において、前示主位的請求が認容されない場合には、主位的請求の原因事実に基づいて予備的請求の趣旨記載どおりの判決を求める」と述べた。

(立証省略)

被告は昭和三四年(ネ)第九二号事件について本案前の主張として「原告らの控訴は法定期間経過後に申立てられた不適法なものであるから、控訴は却下さるべく、また、原告らが従来主張してきた境界確認の訴を、共有持分に基づくその範囲確認の訴に変更したのは、請求の基礎に変更ある請求の変更であるから却下さるべきである。かりに然らずとするも、甲山林は、原告らの外に数名の共有者が居り乙山林は被告の外に三名の共有者がいる。原告の主位的請求の訴も予備的請求の訴も、甲山林の共有者全員において原告となり、乙山林の共有者全員を被告として提起することを要する必要的共同訴訟である。けだし、前者の訴はもちろん、後者の訴もその実質は、甲山林の所有権の範囲確認を求めることを内容とする、一種の処分行為であるからである。一歩を譲り甲山林の共有者の一部の者である原告らが原告たる適格を有するとしても、被告たる者は訴の性質上乙山林の共有者全員について、合一にのみ確定すべきものであるから、乙山林の共有者の一人に過ぎない被告のみを相手方とした本訴は不適法として却下を免れない。」と述べ、

両事件の本案について、昭和二九年八月二三日並びに昭和三三年一〇月二二日言渡しにかかる原判決の被告主張事実記載のとおり(ただし、甲乙両地の境界線の位置については、後記のとおり変更主張した)陳述した外、原告らの訴訟承継の事実及び被告が伐採した日時が、本訴提起前の昭和二八年中であること、被告以外の乙山林の共有者三名の所在、生死が不明であることは認めるが、乙山林は被告が一七分の一四、訴外藤島勘平、平山房、朝鍋恒次郎がそれぞれ一七分の一の持分を有する山林である。しかして甲乙両地の境界は、原告ら主張の線ではなく、別紙当審検証調書添付図面(第二図面という)20、21、22、23、9を連結する線が境界で、その以南は乙山林である。乙山林は別紙第三図面のとおり三渓流の交叉点に元農林省が民有地と農林省所有地との境界を定めるため設立した石塚の中心を基点としNo.9、11、14、24、25、32、37、防81、防83、防84、防85、防86、防87、No.5、4、3、2、基点を順次連結する線をもつて囲まれた範囲である」と述べた。

(立証省略)

理由

一  昭和二九年八月二三日言渡された原判決正本は、言渡しの日に原告ら代理人に送達され、原告らは同年九月六日原裁判所に控訴を提起していることは、記録上明白であるから、右控訴は適法な期間内に申立てられたものというべく、これに反する被告の主張は理由がない。

二  甲乙両山林が境を接し、乙山林は甲山林の南に隣接すること、甲山林は原告ら外数名の共有であり、乙山林は被告の外に共有者があること(被告は他に三名の共有者が存し、被告の持分は一七分の一四であるといい、原告らは、他の共有者は二名で、被告の持分は一六分の一四であると主張し、共有者の人数と持分の割合について争いはあるが)は、当事者に争いがない。ところで、原告らは右の事実を前提として、初め原告ら及び共有者の有する甲山林の共有権に基づいて甲乙両山林の境界確定を訴求していたのであるが、後これを変更して事実欄記載のとおり、共有持分に基づいて、主的位に甲山林について持分の範囲確認を求め、予備的に甲乙両山林の境界確定を求めるにいたつたものであるところ、かかる請求の変更はなんら請求の基礎に変更がないものと解すべきであるから、請求の基礎に変更あることを前提とする被告の抗弁はその前提を欠くので採用のかぎりでない。

三  さらに被告は本訴は甲山林の共有者全員が原告となつて乙山林の共有者全員を相手取るべき必要的共同訴訟であると主張するので考えるに、原告らの予備的に請求する境界確定の訴に関してはしばらくおくも主位的請求の訴について見れば、いわゆる共有権確認の訴には、数人の共有者が共同して共有物を所有することの確認ないしその共同所有権の範囲確認を求める訴と、各共有者が共有物について有する自己の持分ないし持分の範囲確認を求める訴の二つがある。前者は共有者全員の権利関係の確認を求めるものであるから、共有者全員が原告となつて提起することを要するのは当然であつて各共有者が単独でこれを提起するのは不適法であるけれども、後者は各共有者各自の有する持分の権利関係の確認を求めるものであるから、各共有者は単独で第三者又は他の共有者を相手方とし、これを提起することができるものと解すべきである。本件におけるがごとく、共有物が山林(甲)であつて、右の第三者が甲山林に隣接する乙山林の共有者の一人である場合でも同様で、甲山林の各共有者は単独で自己の持分に基づいて、持分の権利関係(持分の存在ないし持分の及ぶ範囲)を争う右の第三者のみ相手取り、甲山林につきその持分ないし持分の範囲確認の訴を提起し得ることは当然のことに属する。これに反する被告の主張は採用しない。

四  よつて本案について考察する。

原審第一、二回及び当審検証の結果、原審鑑定人吉田主税の第一、二回鑑定の結果(鑑定書の添付書類、特に測量野帳を含む)、当事者弁論の全趣旨によれば、別紙第一図面イ、ロ、ハを連結する線に添う小川の東側は甲山林で、西側は乙山林であつて、イ、ロ、ハの連結線に添うその西の小川が甲乙両山林の境界の一部を成すものであること、同第一、二図面タ、レ、ソ、ツ、ネ、ナ、ラ、ム、ウ、イ、ロ、ハ、21、22、23、タを順次連結する線で囲まれた地域は少なくとも甲山林に属すること、同地域に外接する土地、すなわち同第一図面のイ、ウ、ム、ラ、ナ、ネを連結する線の外接地(同連結線の西方ないし西北方の土地)は第三者の所有地で、甲山林が右連結線をもつて、これに接し、同図面ネ、ツ、ソを連結する線は、甲山林と第三者所有の外接地の境界であり、同図面ソ、レ、タを連結する線は、甲山林とその東側の第三者所有の外接地との境界であり、また同図面タ、ヨ、カを連結する線は、係争地とその東側の第三者所有地の外接地との境界であることが認められる。これに反する証拠はない。

前掲記の資料に、原審証人有地蔀の証言によつて成立を認める甲第二号証及び同証言、原審証人小宮喜助、吉田主税、当審証人朝鍋亀治、市政市右衛門の各証言、原審原告本人佐伯喜一郎、佐伯光太、佐伯吉次郎(第一、二回)を各尋問の結果、本件訴状添付の図面、甲乙両山林の境界線の所在(位置)を変更した被告の口頭弁論の全趣旨を総合すれば、甲山林と乙山林の境界は、原告ら主張のとおりであると認定するのが相当である。この認定に反しあるいは反するかのような原審証人朝鍋市次郎(昭和三〇年三月三日尋問)藤島重寿、朝鍋亀治、当審証人日高清作、佐伯高吉の各証言、当審被告本人尋問の結果、乙第二、八号証は、前示採用にかかる資料に照らし信用できない。乙第三号証ないし第六号証、原審証人朝鍋市次郎の証言(昭和三一年四月二九日尋問)、原審鑑定人加藤常太郎の鑑定の結果をもつては、右認定を左右することはできず、他に右認定を妨げる証拠はない。

ところで被告が本訴提起前の昭和二八年中に原告ら主張の地域に生立する樹木を伐採取得したことは被告の認めるところであり、同伐倒木が甲山林内に存し、九三号事件の原告佐伯光太、佐伯甚之助、橘喜美子、佐伯常次郎の四名が他の共有者と共有するものであることは前認定に徴し明白であり、前示援用の人証によれば、右は少なくとも同原告らに対し被告の過失による不法行為と認むべく、原審鑑定人吉田主税の第一回鑑定の結果によれば、昭和二八年中における伐採木の価格は金一六、三六〇円であることが認められ、(これに反する証拠はない)当時甲山林について原告佐伯光太が一四四分の九、佐伯甚之助、橘喜美子、佐伯吉次郎が各一四四分の八の共有持分を有したことは当事者間に争いがないので、被告は原告佐伯光太に対し金一六、三六〇円の一四四分の九にあたる金一、〇二二円他の原告三名に対しそれぞれ金一六、三六〇円の一四四分の八にあたる金九八〇円及び右各金員に対し不法行為の後で、かつ訴状送達の翌日である昭和二八年一二月二六日以降各完済にいたるまで、年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならない。

よつて、九二号事件の原判決は不当であつて、原告らの控訴は理由があるからこれを取消し、九三号事件につき被告の控訴は理由がないが、前示原告四名は当審において請求の趣旨を変更したので、(附帯控訴の申立てに当る)これにより原判決を変更すべく、民訴法第三八六条第三八四条第九六条第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

第一図面

<省略>

第二図面

<省略>

第三図面

<省略>

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